荒廃世界のコーヒー

2022-01-14 16:20:36

二本共和政府 ショートストーリー1

概要

情景描写の練習用に執筆しているものです。誤字脱字や日本語が変なところはご容赦ください
また、二本共和政府のことを知らない人にわかりやすくサラッと知ってもらえるような物語を目指しているので、わかりにくい点はどんどんご指摘ください(参考程度にしますたぶん。きっと)

更新履歴

  • 2021-10-03 4.帝国、5.マスターを追加
  • 2021-10-03 当サイトでの公開開始

本編

1.首相と外務大臣

「君は、『コーヒー』を飲んだことがあるかな」

首相が何を考えているか分からない。表情は不敵な笑みを浮かべているように見えるが、目に生気が宿っていない

「ボクは……飲んだことはある。化学合成されたあの飲料物だろう?」

ディグは外務大臣の業務の合間にも、目覚ましのために飲むことがある。コンビニで100円程度で販売している手頃な飲料だ

「そうだね、化学的に合成された『コーヒー粉』に、お湯を通すなりして抽出する飲み物だね。ところで、他のインスタント飲料と違い、なぜ『抽出』という余分なプロセスがあるか、考えたことはあるか?」

それはディグも考えたことがなかった。しかし、彼の机の上には金属製の器の上に楕円形の粒が入れてある。色はブラウンで、ちょうどコーヒー粉と同じ色をしていた

ディグがそれに目をやると、首相はその目線に気がついたのか、2ミリほど目を見開いた

「そう、これは『コーヒー豆』と呼ばれるものだ。セイレキ時代には、天然のコーヒー豆を粉砕して抽出するのが一般的だった」

首相は豆を、ハンドルのついた筒状のものに入れて回す。ゴリゴリという音が無機質なコンクリート壁に反響する

「これは、『コーヒー豆』の香り……?合成コーヒーとは全くの別物……」

部屋に漂う香り。ディグの内部で、香りはアナログデータとして取り込まれ、そのまま脳に伝達される。それはほろ苦いチョコレートのような、あるいはナッツのような、不思議な香ばしい香りだ

「この香りは、HUMANOID N-700型である貴方か、純人間でないと感じることはできない。デジタル的に数値化されたデータでは真に『嗅ぐ』ことは困難」

しばらくの間、コーヒーの香りが漂うだけのゆっくりとした時間が流れた

首相はハンドルを回すのをやめ、筒状のものから粉末状になった『コーヒー豆』をドリッパーに移す。ここからは合成コーヒー粉と同様に抽出するのだろう

相変わらず、コーヒーを淹れる彼の表情はほとんど変わらない。しかし、ディグの目には少し悲しい顔をしているように見えた

2.国防大臣

細長い空間の半分はカウンターで占められ、残りの部分には客席が置かれている。お世辞にも広いとは言えないが、ディグはむしろ狭いところのほうが落ち着くのだった

「マスター、いつもの」

カウンター席の真ん中のほうに掛けながら、ディグはスキンヘッドの男に告げる。マスターと呼ばれた男は体格が良いので、カウンター内ではとても窮屈だ。しかし、「はいよ」と返したあと、窮屈さをものともせずスラスラと手際よく動く

「おう、ディグじゃねぇか。俺が疲れてるときにお前はエンカウントするな」

黒髪の男が、カウンターの端のほうに腰掛ける

「くそやr……アロッグに会うなんで今日はボクもついてないね」
「おいおい、クソ野郎と言いかけただろう。いつも仕事中居眠りするお前が俺にそんなことがいえるとは感心なものだね」
「はいはい、おにーさまご機嫌麗しゅうございますわ。それとも親愛なる国防大臣様とお呼びしたほうがよろしくって?」

アロッグの嫌味にディグは意地で返す。アロッグはディグの兄であり国防大臣だ。兄妹で内閣に属してて政党も同じだが、犬猿の仲でよく喧嘩している

マスターはその空気を察したのか、「今日もお冷で?」とアロッグに尋ねる。ここはマスターの店だから、文字通り喧嘩に水を差されても仕方ない。油を注がれるよりマシである

「……いや、今日は飲むよ。そうだな、マスターのオススメでいい」
「かしこまりました」

純人間のアロッグはたまにお酒をやることがあった。ただし、あまり強くはない

2人はその場で黙り込む。しばらくの間、この空間は冷房が発する低い駆動音と、マスターが動く音だけとなった

静寂が流れた後、沈黙を破ったのはアロッグだった

「首相んとこ行ったんだって?」

「ああ。初めて会ったよ」

「どんな人だった?」

「L12権限を持ってないから、ボクの口からは言えない」

国土統治大臣(首相)、夢野に会える人間など数少ない。政府のトップであるにも関わらず、その素性は謎に包まれている。ディグの言ったとおり、L12権限(最高権限)を持ってない人間が喋れば犯罪となるし、実際仕様で喋れない

「首相が会うってことは、相当大事な話だったのか?」

「いや、それがなんか……コーヒーの話で……」

「コーヒー???」

アロッグは拍子抜けした顔になる。それもそうだ。謎に包まれた人物が珍しく人に会ったかと思えば、話したことがコーヒーの話というのだ

「ミックスジュースおまたせしました」

マスターが先程までシェイクしていたものを、三角のカクテルグラスに注ぐ。ディグは仕様上アルコールを分解できず、お酒を飲むと最悪死ぬので飲めない

ディグは少しだけミックスジュースを口に含ませ、舌の上で味を吟味する。まるで高級なお酒でも飲んでるかのような仕草にアロッグは呆れ顔を浮かべた

「それで、コーヒーがどうしたって?あんな苦いだけの飲み物、俺は好かんけどな」

ディグはムッとした表情でアロッグを睨むが、やがて諦めたのか、ミックスジュースを再び口に運ぶ。彼女の青いロングヘアの上についている猫耳が後ろに仰け反った形をしているが。やがてディグは口を開く

「マスター、『コーヒー豆』って知ってます?」

3.広島都

ガタッゴトッと揺られる車内。およそ5両編成はある電車の2両目で、ディグは揺られる。窓のすぐ外は車のネオンで溢れており、時折バスが並走したりする
ディグは、共和庁舎のある紙屋町セントラルから路面電車という乗り物にのっている。路面電車は、その名の通り道路上に敷かれた軌道を走る乗り物であり、区間のほとんどを路面電車として走る純粋な路面電車はここ、広島都にしか残ってないという
「次は、市役所前、市役所前です。広島Tramic、全国系Tramicのチャージは、車内の両替機をご利用ください」
淡々と流れるアナウンスに、なぜかいつも以上の心地よさを感じる

「うぅっ」

ディグの隣ではアロッグが酔い潰れている。これでもそんなにアルコール度数の高いのを飲んだわけではない。しかもカクテルグラス1杯である

「お冷にしとけばよかったのに」

「うるs……まって吐きそう」

「吐くな吐くな!こんなところで吐かれたら殴る!」

アロッグはなんとか飲み込む。それはそうだ。国防大臣が、公の場で吐く姿なんか見たくない。いや国防大臣でなくても見たくは無いだろう
「明日は大坂都で仕事でしょーが。なんで無理したの」

この国で出張は珍しいことだった。単に道州の境界を越えるのに若干の手続きが要るというのもそうだが、ネットワークはどこへ言っても繋がるために、場所が重要になる仕事が少ないのだ

「あぁ……西二本自衛隊が、未確認機を近頃多数見かけるって言うから……」

「それって、『帝国』の?」

「まだ確実じゃないが、恐らく……」

これまで、北の帝国の機体が領空侵犯をすることは何度もあったが、近頃は二本海沿岸の、とくに西二本州で頻度が増えているという

「まぁそれは俺の仕事だ。お前には関係ない」

「そう……」

そのまま無言になってしまった2人を乗せたまま、電車は夜の冷たい空気を掻き分けながら進んでいった

4.帝国

この列島にあらざるものが、領空を切り裂く
漆黒の比較的大型なボディで、後部ではアフターバーナーが火を噴く

「編隊長、俺は目の前の蛮族に銃弾ぶち込むために来たんじゃねぇのか!?」

「バカかサヴィン、死にたいのか!」

水平線の向こうには二本列島があるだろう。目と鼻の先にある敵勢力を蹂躙したくてウズウズしていた、サヴィンと呼ばれたパイロットが叫ぶが、編隊長が答える前に同僚に怒られる。それもそのはず、彼が『蛮族』と称した民族に、帝国軍はほとんど勝てたことが無かった

「まったく、極東に送られる人員は以前から恵まれてなかったが、ついに任務の中身すら聞かないのを送り込まれるとはな……」

編隊長がため息交じりにぼやく。もはや怒る気力すら無くなっていた
しかしながら、実は任務を全く聞いて無かった訳じゃない。ただ彼は少しひねくれ者で、とにかく敵を潰すこと、殺戮することに快感を感じるような人間だった。かつて帝国軍と中華民国の戦争でも、必要以上に民間人に危害を加えたりなど問題行動が多かった。しかも、敵が強ければなおさら興奮するのである

「レーダー反応あり、列島軍と思われます」

帝国軍は、二本列島に7つある国防組織のことをまとめて列島軍と呼称している

「全機戦闘に備えろ」

「編隊長、列島軍から通信が入ってます」

「エニコフ、聞くだけで無視しろ」

通信の内容は『こちらは南陽道空軍、貴機は領空侵犯している。速やかに離脱せよ』という内容だった。まもなくして、小型でグレーの航空機4機が、編隊の両側と後ろを囲むように追尾してくる

「チッ……こんなチビども、さっさと蹴散らしてやりてぇぜ」

攻撃性能では帝国に分があった。速度や機動力では列島軍のそれには劣ったが、互角に戦えない訳じゃない。しかし、今ここに3機しかいない帝国軍ではリスクも大きい

「編隊長。後続の敵2機、ロックオンしてきました」

「南の連中はそう甘くないか。だが奴らに先制攻撃するだけの度胸は無い」

彼らは知っている。列島軍は基本的に積極的な攻撃は禁止されていることを。その列島でも航空戦力のことを「最先端の空飛ぶ墓」と揶揄されているのは、相手が攻撃を放つまで絶対に攻撃できないことに由来する。有利でも命がけなのは列島軍のほうなのだ

「編隊長、別動の編隊よりコード1230」

「サヴィンも確認しろ」

「おう、1230だぜ」

編隊長は自身の画面にも1230が表示されていることを確認すると、一呼吸置いて言った

「よろしい。戦闘許可する」

5.マスター

細長い空間の半分はカウンターで占められ、残りの部分には客席が置かれている。お世辞にも広いとは言えないが、共和政府の広島庁舎や瀬内州政府なども入居する紙屋町セントラルビルであり、立地は良い
実際、カウンター席の真ん中のほうに掛ける常連の少女は外務大臣で、カウンターの端のほうに腰掛ける国防大臣もよくここに来ている

「マスター、いつもの」

外務大臣のディグはアルコールを分解する仕組みが弱く、お酒は注文しない。しかし、糖分を体内である程度エネルギーに変えることができるため、ミックスジュースをいつも飲んでいる

「マスター、お冷」

国防大臣のアロッグもお酒には弱いが、飲めないことはないらしい。しかしほとんどお冷とおつまみで済ませている

「そういえばマスター、コーヒー豆のことはどうなった?」

昨日ディグが来たときはコーヒーの話になった。マスター自身はコーヒーを飲んだことがなく、ほとんど知識がない。しかしマスターはそれに興味をそそられたのだった

「私のほうでも調べてみましたが、やはり生産している地域が限られており、入手自体が難しいようですね」

「やはり難しいかー……」

「はい。現在コーヒー豆を生産しているのは」

プルルルルルルルルル

電話が鳴るとアロッグがポケットから携帯電話を取り出した

「はいアロッグで……はい。はい……え?それは本当ですか?
 ……わかりました。すぐ行きます」

すごく短いやり取りだったが、どうやら重要事項らしい

「マスターすまない、緊急で用事が入ってな」

「大丈夫ですよ。お気をつけて」

マスターはニコッと笑顔で返す

「また残業が増えてそろそろ胃に穴でも空くんじゃないの?」

「……胃で済めば良いな」

ディグは少しアロッグをからかうが、返しにキレがない。そのままアロッグは急ぎ足で店を出て行ったのだった

「疲れてんのかなぁ」

ディグはいつもと違うアロッグの挙動に戸惑い心配するが、それほど気にはしなかった

「それでマスター、さっきの続きを!」

「たしか産地の話でしたね?いくつかあるのですが、二本から近いところならば、東南アジアや中華の雲南というところで生産されているそうです」

東南アジアにある東南アジア諸国連邦は、極東協定の加盟国では最南端に位置する。また中華は現在、台湾以外はソロイシナ帝国領となっているものの、雲南など一部地域ではレジスタンスが未だ占拠しており、農園や重要施設は彼らによって守られていた

「けっこう戦地に近いのね」

「えぇ、ですが南陽道が本格的に支援を開始するという情報もありますし、なんとか購入できると思います」

「たしか不定期の船舶で来るんだよね」

「はい。情報では明日、東南アジアの港を出発する便にもコーヒー豆が入っているようなので、輸入業者にコンタクトを取ってみるつもりです」

「それは楽しみだ」

ディグもマスターも、まだ見ぬコーヒー豆に想像を膨らませ、ワクワクしていた。そう、このときは

二本共和政府